410 Award Exhibition
#07

切り絵の世界展
Kiri - shi 長屋 明
2026.1.8(木)-1.11(日)
0.2mmの繊細な線がひときわ存在感を放つ切り絵作品。
額の中でそっと浮かせるように展示することで、線は紙から離れ、まるで空気そのものをまとったかのように軽やかに揺らぎます。
その繊細さは、自然の中に潜む美しさを思い起こさせる――
そんな、空気と光が共演する作品です。
プロフィール
1967年 栃木県日光市出身
1988年 寿司職人の笹バラン細工の匠の美しさに魅せられ切り絵創作を独学で開始
2008年 初個展「長屋 明 切り絵の世界展」杉並木ギャラリー/栃木県日光市
2012年 個展「NY切り絵展」SOMETHIN’Jazz gallery/NY・USA
2015年 個展「奇跡の切り絵展」東京国際フォーラム/東京都中央区
招待「スターウォーズ/フォースの覚醒」公開記念アーティストプロジェクト東京都六本木
2016年 招待「写楽インスパイア展」新宿外苑/東京都新宿

もはや“神業” 誰もが「切り絵」とは信じない超絶技 Kiri-shi 長屋明
大作の「写楽」と長屋明
■「切り絵」と聞いた瞬間に身震い
それが「切り絵」だと言われても、なかなか信じることはできない。
髪の生え際、着物の皺まで微細に描かれた「写楽」の大作。次の作品に目をやると、舞台で見栄を切る歌舞伎役者が振り乱す長い髪は、1本1本が生き物のようにうごめいている。「大海原」と書かれた書は、見事な墨のかすれに達人の風情がある。
何も説明されなければ、これらはデザイン性に優れた極細のペン画であり、書である。そうとしか見えない。見た者は「素晴らしい作品ですね」と言うだろう。しかし、これらすべてが「切り絵」だと聞いた瞬間、身震いする。
「え?まさかそんな…。一体どうやって?」

大海原

■寿司職人の技に魅了されて
20歳の頃、アルバイトした地元の寿司店で、職人が作る「笹切り」を見て魅せられた。笹の葉に包丁で切れ目を入れ、鶴や亀など縁起の良い形に仕上げ、寿司に飾る。「化粧切り」と呼ばれる伝統技法だ。
自分にもできるかもしれないと思い立ち、カッターナイフと紙を使ってやってみると、何となくできるではないか。それが「切り絵」だという認識すらないまま、遊びで続けているうちに上達していった。
工業高校を卒業して光学機器メーカー大手のニコンに就職。米国のNASAなどに収める特殊な製品の部品を作る仕事をしていた。「細かい作業は得意だったし、勘はあったと思う」と振り返る。3年勤めた後、父が鬼怒川温泉(栃木県日光市)で営んでいた土産店を手伝うことに。その後、射的場やレンタルスキー、保険代理店などに事業を展開していった。
その間、20年ほど、切り絵は全くの趣味だった。「芸術を語るなんて恥ずかしくて、とんでもないと思っていた」。カッターの下に敷くマットがあることを知らず、新聞や雑誌を下敷きにして作業。スプレー糊(のり)の存在も知らず、作品を普通の糊で貼ってよれよれになることもしばしばだった。
「4代目歌舞伎」


「龍図」

「龍図」解説
鉄をレーザーで切り抜いた作品も
■東日本大震災とコロナ禍で…
独学で試行錯誤しているうちに、徐々に自らのスタイルを確立。2008年に地元で初の個展を開き、切り絵アーティストとしての活動を始めた。しかし11年、東日本大震災の影響で経営していた店への客足が途絶え、廃業に追い込まれてしまう。
何とかしなくてはと考えていた時、知人から「東京に出て作家としてやってみないか」と誘われて上京。13年に「週刊朝日」のグラビアページで作品が紹介されると、テレビ番組から続々と出演依頼が舞い込み、知名度は急上昇していった。
さあ、これからという時。19年末から始まった新型コロナ禍で 個展やイベントはすべて中止に。それでも諦めず、働きながら制作して出品した「Tokyo世界展ランブイエ2022」と「日本・フランス現代美術展」(23年)で優秀賞を受賞。今回の受賞へと続いた。

「ワイルド」

「トワイライト」

「アルトサックス」

「くまさん」
熊の模様が数個、隠れている
■コピー用紙と安価なカッターナイフで
作品はバラエティーに富んでいる。今回の受賞作「KAEDE」は楓の枯れ葉をモチーフにしたもので、裏には金箔が貼ってある。それが白い背景に反射して、影にはうっすらと色が映る。葉脈の中には小さな鳥を潜ませてあり、トリックアートのような楽しみ方もできる。
ほかにも、大型バイク、猫、クマのぬいぐるみ、トランペット、サックスなどを展示しており、手元には200点ほどの作品があるという。どの作品も、ガラスケースの中にアクリル板を立てて貼り付けてあるため、空中に浮かんだように見え、映し出される影も効果的だ。
作品を単純に台紙などに貼ると、ペン画や書画に見えてしまう。皮肉だが、作品が完璧すぎるため「切り絵には見えない」と言われることが多かったことから編み出した手法だ。
使う紙は、基本的にはコピー用紙。厚みがありすぎるとうまく切れないため、いろいと試した末に、厚さ0.1ミリのコピー用紙にたどり着いた。道具はよく使われる安価なカッターナイフ。それを手に、最も細くて幅0.2ミリという極細に切っていく。
1作品を制作するのにかかる時間は、3カ月から長いもので1年くらい。幾度となく失敗を繰り返してきたが、失敗したら次はもっと良くできると思えるようになった。
2026年は勝負の年。2度の大きな困難を乗り越え、自分で切り開いてきた手法で、再び世の中に挑む。「切り絵を覚醒させたい」と意気込んでいる。
(ライター・藤堂ラモン)

410Gallery賞の「KAEDE」
410 Award Exhibition
#06

塩屋
小鳥乃子
2025.3.20(木)-3.23(日)
”塩”は私たちにとって古くから身近な存在ですが、使う量によって、ほどよいものにも度をすぎたものにもなり得ます。
今回はそんな”塩”にまつわる愉快な人々の姿と商品を展示します。
ほどよい塩梅が見つかることを願っています。
小鳥乃子
コトリノコ/アーティスト
プロフィール
福岡在住。大学ではグラフィックデザインを専攻とし、大学院ではより社会に関わる総合的なデザインを学ぶ。幼少期から絵本のあいまいさや怪しさ、なつかしさなどの魅力に惹かれ、絵や物語を中心とした創作活動を行っている。
1998年 福岡県 福岡市 生まれ
2021年 九州大学 芸術工学部 画像設計学科 卒業
2022年 フィンランド アール大学 留学(1年間)
2024年 九州大学 芸術工学府 デザインストラテジー先行 修了

正か邪か、「塩加減」で心をザワつかせる 小鳥乃子
個展「塩屋」を開いた小鳥乃子。
この表示も自らデザインしたものだ
一度見たら夢に出てくるに違いない。
大柄な人物の膝の真っ赤な擦り傷に、少年らしき人物が塩を塗っている。タイトルは「傷口に塩を塗る人」。塩の入った壺を抱え、指先に神経を集中させるその目は無表情だ。
並べて展示されていた作品のタイトルは「手塩にかける人」。今度は、大柄な人物が少年に塩をふりかけ、塩は頭上に山のように積もっている。どちらの絵も大柄な人物の顔は描かれていない。見る者の視線は、少年の無表情な目に吸い込まれていく。
個展のタイトルは「塩屋」。いかにも奇妙だが、塩という人間にとって不可欠な化合物に着目したところに、小鳥乃子の非凡な発想力がある。
「傷口に塩を塗る」という言葉は、家族の何気ない会話がヒントになった。調べてみると、塩を使った言葉のバリエーションは思っていた以上に広かった。「しおらしい」「敵に塩を送る」「塩気がぬけた人」「塩対応」……そして「塩梅」(あんばい)。


「手塩にかける 人」
「傷口に塩を塗る人」



「塩顔水」の3連作
塩顔水の商品パッケージ
塩顔水の商品広告
■「悪にも正義にも振れない言葉が好き」
もともと「悪にも正義にも振れない言葉が好き」だった。中学高校とキリスト教系の学校に通い、信者ではないが自然と宗教感が身についたのだろう。古代ギリシャに由来する仏像のアルカイックスマイルにも興味を持った。顔の感情表現を極力抑えながら、口元だけは微笑んでいるように見える。小鳥乃子という作家の押しつけがましくない表現は、そこに原点があるのかもしれない。
その最たるものが「塩顔」という3点の連作だ。作品の下には「塩顔水」という架空の商品の広告が置いてある。無表情でつるっとした顔の人物が描かれ、「新時代 あっさりを追求」「フェイス用」「効果が見られました」とキャッチコピーが添えられている。

個展会場にたたずむ小鳥乃子

「塩顔 1カ月後」

「塩顔 2カ月後」

「塩顔 3カ月後」
■これはもはやホラーと言ってもいい
塩顔の人物は、塩顔水の使用から1カ月後、2カ月後、そして3カ月後と表情が変化している。3カ月後は目、鼻、口ともに小さく薄くなり……。これはもはやホラーと言ってもいい。ホラー漫画家・伊藤潤二(代表作「富江」「うずまき」)や、楳図かずお(代表作「漂流教室」「まことちゃん」)のファンだというのもうなずける。
この塩顔水には、もうひとつ仕掛けがある。なんと、商品のパッケージをデザインし、そのステッカーまで作ってしまったのだ。九州大学芸術工学部・大学院ではアニメ、映像、CGからプロジェクションマッピングまで学んだだけあって、架空の物とは言え、訴求力のある商品に仕上げたのは驚きだ。
幼い頃、昆虫の抜け殻を集めるのが好きだったという経験から描いた作品「抜け殻を作る玩具」も面白い。イモリのような生物の抜け殻を手に、ちょっとうれしそうな少年を描き、説明文には「このヌケガラ液を使えば、好きな形の抜け殻を作ることができます」とある。

「抜け殻を作る玩具」

「声が出る霧吹き」

「蚊にさされている子」
■絵本作家になりたいと言い続けて
スプレーを吹くと「マ」の音が出る「ママスプレー」を描いた「声が出る霧吹き」、蚊に顔を刺されても殺すのはかわいそうだという「蚊に刺されている子」など、誰も考えつかないであろう独創的な作品群は、細部まで何度も見たくなる。
幼稚園の頃から、絵本作家になりたいと言い続けてきた。2024年3月に大学院を卒業し、アルバイトしながら制作に取り組む日々。人々の心をザワつかせる新作の発表が楽しみだ。(ライター・藤堂ラモン)

410Gallery YouTube チャンネル
「RIS410」#02 小鳥乃子氏インタビュー→こちらから
410 Award Exhibition
#05



